設計者と法律家と品質 2005年2月18日

森口 英樹 (指定確認検査機関)

             
 ゼネコンで構造設計に携わって18年、共同住宅、事務所、店舗など様々な用途、また超高層建物、免震、制震などの設計を担当することもできた。研究活動の機会も与えられ、構造設計者としては幅広く仕事を楽しめたと思っている。その後、縁あって指定確認検査機関に活動の場を移した。平成11年に改正建築基準法が施行され、審査の民間開放により確認検査が行政だけではなくなったのである。言うまでもなく確認の審査は基準法に基づく法的審査であり、学協会の指針による審査でも研究論文による審査でもない。とはいうものの、構造設計が基準法片手にだけでできるものではなく、詳細な計算は「RC規準」など学会出版物によるところが大きいのも現実である。

 私の役割は、いろいろな資料から判断し何らかの根拠をもてる構造設計を行い、現場では品質を確保すべく監理を行うことから変わって、とある設計者により設計された図面の審査および現場での検査となった。つまり、設計者から法律家になったと言える。法律家は、法律上の解釈の元で設計的判断を入れずに適合か不適合かを確認していく立場で、設計業務はできなくとも設計された建物の審査はできる人材である。アドバイスやコンサルティングはあり得ない。付帯事項もなく、設計内容が法的に○か×か判断するのみである。ここで、法文上解釈が分かれる場合、設計者と法律家の間で意見のやり取りが生じる。設計者はデザインを生かしコストを抑える方へ判断をしていき、法律家は法文に抵触しない範囲の中で安全性が保たれる判断をする。見解の一致を求めて設計者は審査機関をヒアリングしてまわることが可能である。法律家の判断には、余裕をもつ場合もあれば抵触ギリギリの線もあるだろう。私も今の仕事を始めて法律家としての判断をするように心がけているが、前身が設計者だけに正直切替に苦労している面もある。

 ひとつ、これまでの行政との大きな違いは、我々は民間が故に利益を上げなければならないことである。審査、検査の効率も求められる。現場検査に行くと、もし自分が監理者だったらとても許容できないものでも、法的に抵触しなければ適合の判断を下さねばならない。行政のように指導という権限もないので、そこでこだわるわけにはいかない。ここで、品質というものはあくまでも設計者、監理者、もちろん施工者も含めて守るべきものだと改めて実感している。この仕事も3年経ち、我々の業務は建物の品質を高めるという分野にはむやみに踏み込めない、踏み込んではいけないという意識が自分のものとなりつつあり、言い換えれば確認の民間化が加速する中で品質管理の重要性は増していき、設計者としては法的審査をパスするのは当たり前で、より品質の高い安全な建物を造るのは設計者自身であるという意識で設計行為に望んでもらいたいと切に願うばかりである。

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