キャラヴァンサライ(隊商宿)の中庭 2012年3月11日

庄司 和彦 (庄司和彦設計室)

シルクロードは、中国西域から中央アジア、イラン高原を通ってアナトリア地方(トルコ地域のこと)を縦断、イスタンブールへ至るというのが一般的なイメージでしょう。
昨年の旅行ではこのトルコ・シルクロードをラクダではなくバスで西にひた走るという体験をしました。
アナトリア(トルコ)では、この隊商のためにかつては約20km毎に宿泊施設があり、それがキャラヴァンサライという複合施設です。11世紀、セルジューク朝の王や豪族は利益をもたらしてくれる隊商たちを大切にしてこのような堅牢にして豪壮な隊商宿を用意しました。
その中庭を囲む空間が素晴らしいのです。これは旅の大きな発見でした。

①スルタンハーヌ(王の宿):荒野のキャラヴァンサライ:トルコのほぼ中央部、アクサライ近郊

堂々たる門。
夜はこれを閉めて盗賊から守る
中央の小堂は水場とモスク、
中庭奥に大列柱ホールがある

石造の堅牢な外壁、門を入るとそこは広大な中庭、主に荷降ろしやラクダをつなぐ場所です。
周囲の回廊空間は食堂、倉庫、商談用の事務所、娯楽施設など、奥には広大な宿泊用列柱ホールがあり、旅人が家畜と主に寝泊まりしていました。極めて実用的な建築なのです。

厳しい日差しを防ぐ回廊 聖堂のような列柱ホール:
今はレストランとして利用

アナトリア高原は日差しの強い荒野です。2mもの厚い壁で囲み、盗賊から守る城塞のような防御本位の機能が重厚な空間を生みました。もともと遊牧民だったトルコ人は建設技術を持たず、現地にいたキリスト教徒・アルメニア人に頼りました。ですからアルメニアの初期キリスト教聖堂のような石造ドームとなりました。文明や様式は混交するほど面白いものが創造されるということを実感できます。
今にもラクダや隊商たちの喧騒が聞こえてきそう、物語を感じてしまう空間です。
②コザ・ハン:緑のキャラヴァンサライ(シルクバザール):トルコ西端、ブルサ中心街

中庭は緑のカフェ、
やはり水場とモスクの小堂
周囲の2階建回廊はシルクバザール

アナトリア荒野を西の果てまで旅すると緑豊かなオアシス都市ブルサにつきます。コザ・ハンは15世紀オスマン時代につくられたキャラヴァンサライですが、こちらは現在も商業施設・シルクバザールとして賑わっていて、その中庭は前述スルタンハーヌとは対照的に柔らかく優しい空間になっています。
スルタンハーヌは重厚、コザ・ハンは優美:キャラヴァンサライの魅力は語りつくせません。

③ アンカラ城塞
ローマ帝国時代に完成し、11世紀セルジューク朝時代に改修拡張された要塞です。城壁の内側は中世の街並みが残っています。隊商宿ではありませんが実にトルコらしい面白い建築なので紹介します。

アンカラ城門:石の要壁は
堅牢だがどこかユーモラス
城壁内の伝統的木造住宅を
レストラン等に活用している

15世紀初頭、オスマン朝のバヤズィト1世軍と新興のチムール帝軍が小アジアの覇権を争って激突したのが歴史上名高いアンカラの戦いです。アンカラ城塞もアナトリアでの民族の興亡、悠久の歴史を彷彿とさせます。隊商宿も要塞もその高い防御性という機能が建築を面白く豊かにしていると思います。
旧市街の伝統的な木造建築は多様な形の集積で、ごちゃごちゃしていますがとても表情豊かです。「この緩くて多様な構成が現在にいたるトルコ住宅・建築の特徴ではないか」というのが私の印象です。

 

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